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公益財団法人 NEC C&C財団

 

2010年度C&C賞受賞者

Group A

榊 裕之博士

榊 裕之 博士
Dr. Hiroyuki Sakaki

豊田工業大学 学長
東京大学 名誉教授
 

荒川 泰彦博士

荒川 泰彦 博士
Dr. Yasuhiko Arakawa

東京大学 ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構長
東京大学 生産技術研究所 教授


業績記

「量子細線・量子ドット半導体デバイスに関する先駆的・先導的貢献」

業績記補足

榊裕之博士、荒川泰彦博士は、「量子細線」や「量子ドット」という微細構造を、FET(Field Effect Transistor、電界効果トランジスタ)やレーザなどの半導体デバイスへ適用する先駆的提案を行い、それらの特性や機能が従来のデバイスに比べて飛躍的に向上することを理論的に示しました。両博士の提案は、ナノ加工技術の成熟に伴い量子細線FETや量子ドット半導体レーザとして結実しました。 特に、量子ドットレーザについては、実用レベルのデバイスが製品化され、大きな成長が期待されています。現在は、単一の電子や光子を制御する素子等、新たな特性や機能を有する素子の研究が進められています。

榊裕之博士は、MOSFET (Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor) の伝導層内の電子の2次元的な運動に着目し、層内に線状や碁盤目状の障壁を10ナノメートル程の間隔で導入することにより、電子の運動を量子的に制御する新素子概念を着想し、1975年に負性抵抗機能素子を、さらに1980年には量子細線FETを提案しました。この量子細線FETは、カーボンナノチューブなど1次元電子を用いたFETの嚆矢となりました。1990年半ばには、量子ドットを埋め込んだヘテロ構造FETを実現し、メモリ素子や光検出器への応用可能性も示しました。これらの研究は、次世代LSIやセンサなどへの活用が期待されるナノ細線FETに加え、単一の電子の伝導を制御する単電子トランジスタなどに発展し、計測や量子情報処理などの分野へも展開が図られています。

荒川泰彦博士は、1982年に榊裕之博士と共同で、それまでの量子薄膜構造を更に高度化し、半導体中の電子を3次元的に閉じこめる量子ドットの概念を提示するとともに、その応用として量子ドットレーザを世界に先駆けて提案しました。同博士による量子ドットレーザの特性予測は、素子製造技術が進展し、実現が可能となった1990年以降に次々に実証されました。発振閾値が低く、温度制御が不要で10Gbps (Giga bits per second) を超える高速直接変調が可能な量子ドットレーザが開発され、同博士と産業界の連携により、既に製品化されています。さらに現在は、高出力・低雑音半導体光増幅器の研究開発や、単一光子発生素子の実現研究とそれらを活かした量子暗号通信への応用研究などが進められています。また、量子ドットの太陽電池への展開も期待されています。

このように、榊裕之、荒川泰彦両博士による量子細線、量子ドットのデバイス応用の提案は、情報通信分野の新たな地平を切り開く先駆的、先導的なものであり、今後、多方面への応用が期待されることから、C&C賞に相応しい業績と考えます。