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公益財団法人 NEC C&C財団

 

2012年度C&C賞受賞者

Group A

山田 宰 博士

山田 宰 博士
Dr. Osamu Yamada
早稲田大学
理工学術院 客員教授

黒田 徹 博士

黒田 徹 博士
Dr. Toru Kuroda
NHK 放送技術研究所
副所長

高田 政幸 氏

高田 政幸 氏
Mr. Masayuki Takada
NHK 放送技術研究所
主任研究員


業績記

地上デジタル放送伝送方式ISDB-Tの研究開発に関わる主導的貢献

業績記補足

地上デジタル放送は、高品位なテレビジョン映像に加えて、携帯端末でも映像が同時に受けられるワンセグ放送の利便性等から、国内で2003年に実用化されて以降、急速に普及が進みました。この技術は、周波数資源の有効利用、映像・音声の高品質化、データ放送などの新たなサービスの実現、携帯・移動受信端末へのサービス提供等を可能とするもので、2011年7月のアナログ停波に伴い、今や放送・通信分野における基幹技術として、国内のみならず世界各国で採用されています。

デジタル放送時代の到来に先駆け、山田宰博士、黒田徹博士、高田政幸氏らは、1970年代から地上放送波でデジタル信号を伝送した場合の固定・移動受信の課題について基礎研究を進めてきました。1986年から地上デジタル放送用の高効率、高密度な直交周波数分割多重方式(OFDM;Orthogonal Frequency Division Multiplexing)に関する先駆的研究に取り掛かり、1991年には国内で初めての放送用実験装置を開発、1993年にはこの方式により伝送されたテレビジョン映像の移動受信実験に世界で初めて成功しました。

その後、ひとつのテレビジョンチャンネルの帯域を“セグメント”に分割し、セグメント毎に異なる変調を行うことで周波数資源の活用自由度を高められる方式(BST-OFDM;Band Segmented Transmission-OFDM)を発案しましたが、その技術は、高品位テレビジョン信号を主信号とし、携帯電話等による移動受信も同時に可能となる様に13個のセグメントに信号を割り当てる方式(ISDB-T;Integrated Services Digital Broad casting-Terrestrial)としてまとめられ、実用開発されるに至りました。3氏はその開発の各段階において主導的役割を果たしました。

ISDB-T方式は、以下のように欧米の方式にはない特徴を備えています。
・最大3階層までの柔軟な階層伝送が可能で、同一テレビジョンチャネルの中で、固定受信向けサービスと移動受信向けサービスを同時に伝送することができる。
・移動受信を考慮した本伝送方式は、同時に電波障害や外来雑音等への耐雑音特性に優れている。
・デジタルテレビジョン放送とデジタル音声放送、携帯マルチメディア放送等の方式は、帯域幅を除けば共通で、受信機の所要機能がほとんど共通となり低廉化できる。

ISDB-T方式は、無線通信の国際標準化機関であるITU-Rにおいても、欧米の2方式とともに標準方式として勧告化され、1999年から2000年にかけてブラジルで実施された日米欧3方式の比較実験においては、ISDB-Tは最も優れた伝送方式という評価を得ました。ISDB-T方式は、2006年に開始された携帯端末向け放送のワンセグに採用されているだけでなく、本年から開始された携帯マルチメディア放送(ISDB-Tmm)の基礎技術ともなっています。さらに、受賞者らは、国際的な普及についても積極的に活動し、ブラジル、アルゼンチン、チリ、ペルー、ベネズエラなどの南米諸国やフィリピンでも採用され、ISDB-T方式は、今やデジタル放送方式の1グローバルスタンダードとなっています。

3受賞者ともに、研究初期段階から国際的普及に至るまで、本方式の開発に深く関わってきています。山田宰博士は、1970年代からの基礎研究、その後のISDB-Tの研究開始、標準化、国際的普及の全ステージにおいて、常にトップリーダとして本技術の開発と普及を進めてきました。また、黒田徹博士は、特にBST-OFDM方式の開発、標準化、および日本における地上デジタル放送の実用化、普及促進でリーダの役割を果たしました。また、高田政幸氏は、特に研究開発と伝送実験、標準化と国際普及の段階でリーダの役割を果たしました。

この開発の成功は、1960年代から蓄積されてきたハイビジョン放送の研究開発成果、NHK放送技術研究所の研究者の努力、関連した企業の開発者や関係諸機関の努力の積み重ねの上に達成された成果であります。3氏はそれら幾多の努力と成果の象徴的存在と評するに相応しい業績をあげてきました。

以上のように、受賞者らは地上デジタル放送伝送方式に関する先駆的研究を進め、グローバルな地上デジタル放送方式のひとつとして、ISDB-T方式の研究開発、標準化そして普及において主導的役割を担い、わが国の経済産業界においても多大な貢献を果たしたもので、C&C賞を授与するに相応しい業績といえます。