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公益財団法人 NEC C&C財団

 

2014年度C&C賞受賞者

Group A

辻井 重男 教授

辻井 重男 教授
Prof. Shigeo Tsujii

中央大学 研究開発機構 教授
東京工業大学 名誉教授
情報セキュリティ大学院大学名誉教授・初代学長

今井 秀樹 博士

今井 秀樹 博士
Dr. Hideki Imai

東京大学 名誉教授


業績記

情報セキュリティ領域の先駆的研究と産学官コミュニティ構築による分野発展や人材育成に対する主導的貢献

業績記補足

インターネットや情報システムの急速な発展によって我々は様々な利便性を得た一方で、その背後に存在する危険性は近年社会問題化しています。情報セキュリティは情報資産をその機密性、完全性、可用性に係る多様な脅威から守ることを意味し、その重要性は日々増大しています。しかしそれは単に情報セキュリティ技術の進歩や進化のみによって実現されるものではなく、人を介したその利用や活用、運用の高度化などを含む総合的な取組みが重要です。  

辻井重男教授は、1980年代に順序解法による多変数公開鍵暗号を世界に先駆けて提案しました。この方式は、現在、量子コンピュータの出現にも耐えられる公開鍵暗号の候補として国際的な研究が続けられています。また、楕円暗号に関する研究を推進し、これらの方式は、現在、同氏をリーダとする政府系研究プロジェクトを通じてわが国の電子自治体などへの導入を目的とする実装実験が進められています。また、同氏は日本で最初にセキュリティ関連の研究(特に暗号)に着目した一人であり、その発展のために、情報倫理に関する研究集会などの立ち上げを推進してきました。  

更に1990年代にかけ、情報セキュリティ向上のためには、管理・経営、情報倫理、法制度、技術の密接な連携が必要であることをいち早く認識し、1993年には情報セキュリティ総合科学の必要性を提唱しました.情報技術の進化で得た自由と、その結果生じた制約や危険性の回避を高度に両立させるといった本理念に基づき、2004年には新設された情報セキュリティ大学院大学の初代学長となり、現在の情報セキュリティ分野の進展を支える数多くの人材を育成し輩出してきました.さらに行政面においては、1990年代のOECD暗号政策会議への参画を端緒として、総務省や経済産業省、さらには内閣官房での多数の委員会や研究会を主導するなど、人々の社会生活に係る多面的な貢献を果たしてきました。

同氏は我が国の情報セキュリティ分野の発展の礎を築き、産学官におよぶ広範な影響とリーダーシップによって、健全な情報社会の実現に向けた先導的な役割を担い、情報セキュリティ文化の醸成にも多大な貢献を果たしています。また、現在においても論理学暗号や情報セキュリティ概念の高度化などといった新たな分野を世界に率先して開拓し、発表するなど、今なお当該研究の最前線で活躍を続けています。  

今井秀樹博士は、暗号と情報セキュリティの分野において1970年代の後半から暗号理論の研究を開始し、1983年には暗号化と復号を高速にできる公開鍵暗号を提案し、多変数多項式に基づく暗号理論の分野を世界に先行し開拓しました。同理論に基づいて開発された電子署名方式は、2000年から2003年にかけて実施された欧州の産学連携プロジェクトであるNESSIE(New European Schemes for Signature, Integrity, and Encryption)において標準となっています。同氏は従来のように計算量に完全に依存した安全性を超える新たな暗号技術として量子鍵暗号などの革新的技術にも取組み、長期的な安全性を確保するために必要な革新的暗号理論も提案しました。その代表例はKPS(事前鍵共有システム)と呼ばれ、相手のIDを使用することによって、相手との予備通信を行なうことなく安全に秘密鍵を共有するものであり、ICカードの情報セキュリティ方式の一つとして実用化されているばかりでなく、今後のIoT(Internet of Things)システムへの応用が期待されています。  

後には学術的な研究成果に留まらず、電子政府で利用可能な暗号技術の評価を目的として2000年に設立された暗号技術評価委員会(CRYPTREC)委員長として、多数の研究者のリーダとなって暗号評価を実行し、日本の電子政府の標準となるべき多数の暗号を選別しています。また、国内においては発足以来30年となるSCIS(暗号と情報セキュリティシンポジウム)を立上げ、多数の研究者が集うコミュニティを先導してきました。国際的には1990年にアジア初の国際会議ASIACRYPTを辻井教授や他とともに創設し、その後同会議を世界3大会議にまで育てあげました。  
また、公開鍵暗号に関する有力会議であるPKC(International Conference on Practice and Theory of Public-Key Cryptography)を立ち上げたり、IEEE情報理論ソサイエティ会長として情報理論コミュニティにおける暗号研究を推進したりするなど、暗号研究分野の裾野を広げた教育面での主導的な貢献も顕著であり、その結果多数の人材を指導、輩出してきています。これらの業績により、国際暗号研究学会(IACR)において東アジアから初めてのフェローに選ばれています。  

以上のように、今日の社会において欠かせない情報セキュリティの分野で両氏が果たしてきた貢献は顕著であり、同領域の重要性にいち早く気付いた先見性と先導性には極めて優れたものがあります。また、両氏は世界的にもポスト量子計算機世代に向けた先駆的な研究や暗号の多面的な応用の開拓者として知られるだけでなく、産学官のコミュニティ構築や情報セキュリティ科学の振興、さらにはISOでの標準化活動などを通じて人材育成や研究領域の発展に総合的な貢献を果たしてきた国内の代表者であることは明白であり、C&C賞の受賞者としてふさわしいと考えます。