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公益財団法人 NEC C&C財団

 

2016年度C&C賞受賞者

Group A

大野 英男 教授

大野 英男 教授
Prof. Hideo Ohno

東北大学 電気通信研究所 教授



業績記

スピントロニクス技術に関する先駆的・先導的研究への貢献

業績説明

大規模半導体集積回路は言うまでもなく情報通信技術(ICT)の中心技術であり、インターネットの拡大により増大し続ける情報処理システムや、あらゆる産業製品の基盤として、社会の進化や発展を支えています。一方で、その応用製品や領域の拡大は、ビッグデータやIoTといった情報量の拡大や処理の高度化とも相俟って、多大なエネルギー消費を招いており、それ故これからの半導体集積回路や構成素子には高機能性と省エネルギー性との高度な融合が強く求められます。  

大野教授は、そのような社会の発展や要求の高まりに先立ち、磁性体のもつ電子スピンをエレクトロニクス技術に活用し、革新的な高機能素子の実現を目指すスピントロニクス技術を次々と提案創生してきました。また、その優れた省エネルギー性に着目した応用研究を推進し、新たな研究領域の潮流を切り拓いてきました。特に世界初の強磁性Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体の結晶成長実現を始め、化合物半導体における強磁性発現のモデルの構築、さらには外部電界による強磁性と常磁性間の相転移制御、そして強磁性半導体による多種多様な新素子の提案と実証などの一連の活動によって、スピントロニクス技術に関わる研究分野の開拓と発展を自ら先導してきました。  

教授は、1989年に宗片比呂夫博士らと共同でInMnAsの結晶成長に世界で初めて成功し、1992年には同材料が強磁性を示すことを明示しました。さらに1996年には強磁性を示すGaMnAsの結晶成長にも成功し、その後2000年にはTomasz Dietl博士らとともにこれら化合物半導体の強磁性起源に関するモデルを構築しました。これら一連の成果は、その後の強磁性化合物半導体研究の材料基盤や設計指針ともなり、同領域発展の礎となりました。  

以上の材料研究の基礎的な成果をもとに、教授は、強磁性半導体を用いた新たな原理に基づく多様な新機能素子の提唱と実証を行いました。その代表的な成果として、チャネル層に前記の強磁性半導体薄膜を有する電界効果トランジスタ構造による、外部電界による強磁性と常磁性間の磁気相転移や、磁気異方性の制御を実証したことがあります。これは素子の集積化を進める上で重要な磁化ベクトルの制御において、外部磁界やスピン偏極電流などの従来の手法に比べ圧倒的な省電力化の可能性を示すものと言え、将来の超低電力半導体集積回路の実現に道を開きました。以上の革新的な成果は、着目したGaMnAsなどの材料が他のⅢ-Ⅴ族素子と構造の整合性をもつことから、過去から蓄積された半導体の知見と強磁性との関連を融合することができるという、教授の独創的な着想がその成功に大いに寄与したものと言えます。  

また、教授は、スピントンネル効果が不揮発性を有するためにエレクトロニクスにおける電荷移動に比べ低電力になり得ることに着目し、半導体素子と金属系スピントロニクス素子とを融合した新しい集積回路の提案と実証にも先駆的に取り組みました。最先端大型プロジェクトのリーダとして、超省エネルギー社会を実現することを目的に、省エネルギースピントロニクス論理集積回路実証を推進しました。そして、不揮発なスピントロニクス素子と半導体集積回路の融合に挑戦し、CoFeB/MgO系の垂直磁化磁気トンネル接合素子の高性能化に成功するなど、磁気メモリ(MRAM)や論理回路の超高集積化の実現に道を拓きました。さらに、無充電で長期間使用できる究極のエコIT機器の実現を目指す革新的研究開発推進プログラムにおいては、スピントロニクス集積回路によりエナジーハーベスティングで駆動可能な超低電力集積回路を実現するといった産業応用にも挑戦しています。  

以上のようなプロジェクト研究での成果創出過程においては、教授は、研究開発体制の確立等にも尽力し、スピントロニクス素子や回路の製作設備インフラの構築や、新概念スピントロニクス素子創製に係る国際研究拠点の整備などを通じて、同領域の研究人材の育成にも貢献しています。そして、教授の独創的で先駆的な取り組みは、論文被引用数の総合計が数万回と圧倒的多数を数えるなど、多大なインパクトを同分野や隣接分野の発展に与え続けています。  

教授の長年に渡る磁性半導体に係る取り組みとその業績は、強磁性化合物半導体の物性物理の解明などの基礎研究成果創出に加え、従来のエレクトロニクス技術に対し、新たに電子のスピンを積極的に制御し活用する多種多様な電子デバイスの提案や実証などを推進する新たな研究領域の開拓にあります。そして、特に半導体スピントロニクスに係る先駆的先導的な数多くの研究成果は多くの世界中の研究者を引き付け、同分野の発展に国際的に寄与してきました。さらに開発した革新的技術を今後の社会が必要とする産業応用、とりわけ省エネルギー化が求められる論理集積回路のブレークスルーに展開するなど、その業績は学術面のみならず産業面での貢献も顕著です。このことから、C&C社会を持続的に支え続けるための高機能・省エネルギー半導体の基礎となるスピントロニクス技術創生の先駆者として、C&C賞受賞にふさわしいものと考えます。