2017年度C&C賞受賞者
グループB
アルフレッド・エイホ 教授 コロンビア大学 教授 |
ジョン・ホップクロフト 教授 コーネル大学 教授 |
ジェフリー・ウルマン 教授 スタンフォード大学 |
業績記
計算機科学分野における基礎理論の構築と、同分野に関わる多数の優れた著作活動を通じた教育面での多大な貢献
業績説明
近年目覚ましい変化や発展を遂げている人々の生活スタイルや社会環境には、情報技術が大きく影響を与えていることは言うまでもありません。情報技術による影響は社会システムのハードウェア面の進化だけに留まらず、とりわけソフトウェア面での進歩や革新は、C&Cの概念を具現化する便利で快適な社会の実現にとって、大きな役割を果たしてきました。
アルフレッド V. エイホ教授、 ジョン E. ホップクロフト教授、そしてジェフリー D. ウルマン教授の3氏は、情報技術に学問的な基礎を与える理論的計算機科学分野の中核領域である、「オートマトン」、「形式言語」、「コンパイラ」に関する多数の研究業績を挙げるとともに、互いの共著によって同分野を代表する著書を多数上梓してきました。また、3名は前記の中核領域に加え、データ構造とアルゴリズムに係る基礎的な学問領域においても多大な成果を挙げ、多くの著名な表彰や栄誉にも輝いています。さらに共通して特筆すべきは、著書や講義、論文指導といった教育的活動を通じて計算機科学分野における多数の有力研究者や起業家となる人材を輩出し、今日の情報通信社会の発展を支えるソフトウェア領域における人材の育成や教育面での貢献も極めて顕著であるということです。
エイホ教授は、形式言語、プログラミング言語の解析及び変換、さらにコンパイラの理論的研究といった分野において顕著な研究業績を収めています。氏の代表的な業績としては、Margaret Corasick氏との共同によるAho-Corasick 法として知られる、辞書中に含まれる入力文字列を探索しオートマトンを構築する文字列マッチングアルゴリズムがあります。本手法は入力文字列長に対して線形な計算時間を実現するもので、辞書サイズに計算量が依存しない高速な手法として知られ、多くのコンパイラやネットワークルーターの設計に応用されてきました。2003年には単独で “For contributions to the foundations of computer science and to the fields of algorithms and software tools.”として、主にコンパイラに係る計算機科学分野の学術的貢献によって IEEE John von Neumann Medalを受賞しました。研究での多大な貢献に加え、教授には教科書等の著書を通じた教育的な貢献も顕著なものがあります。今回のC&C賞受賞者の一人であるウルマン教授とエイホ教授との代表的著書である“Principles of Compiler Design”や、“Compilers: Principles, Techniques and Tools”はコンパイラを学ぶ上での名著として知られています。そして教授の他の著書等と合わせた50,000を遥かに超える文献総引用数は、氏が著述した多数の著書が、計算機科学の基礎を与える教育的な資料や文献として、幅広く世界的に認知されていることを示しています。
ホップクロフト教授は、1960年代後半からオートマトンや形式言語といった理論的計算機科学の分野で研究を先導し、オートマトン、形式言語やグラフ理論などに基づく、アルゴリズムとデータ構造の設計及び解析の理論的研究において顕著な業績を収めています。グラフ理論の分野では1986年にTuring賞を受けたRobert Tarjan博士との平面グラフの研究や、Hopcroft-Karp 手法と呼ばれる2分グラフのマッチング研究などの研究成果がよく知られています。一方、大学における人材教育はホップクロフト教授にとって極め重要な貢献の一つであり、2008年には計算機科学分野の優れた教育者に与えられるACM Karl V. Karlstrom Outstanding Educator Awardを受賞するなど、氏の長年に渡る人材輩出の実績が称えられています。氏の代表的著書である” “Introduction to Automata Theory, Languages, and Cutation”の文献引用数は20,000に迫り、一方、今回のC&C賞受賞3氏の代表的共著書である”The design and analysis of computer algorithms”はアルゴリズム教育における名著として知られています。また、今回の受賞者の一人でもある、ウルマン教授との共著である“Formal Languages and Their Relation to Automata”は、計算機科学分野を学ぶ学生の導入的書籍として教育の場で長年使用されてきています。
ウルマン教授は、オートマトン、言語理論やコンパイラに関し、顕著な研究業績を挙げるとともに、近年ではデータベース理論研究の第一人者としても良く知られています。2006年にはデータベースの理論研究に対し、単独でEdgar. F Codd Innovations Awardを受賞しています。2010年には今回のC&C賞受賞者のひとりホップクロフト教授とともに、オートマトンと形式言語に係る基礎的な貢献を称えられIEEE John von Neumann Medalを受賞しています。以上のような顕著な研究業績に加え、特筆すべきは、著書、論文や指導力を通じた氏の卓越した教育者としての実績であり、これまで指導してきた学生からはデータベース理論や言語理論分野における世界的な研究者や、今日のITの発展を先導する起業家たちが多数輩出されています。1997年には著書と博士課程学生への指導等の功績によって、ACM Karl V. Karlstrom Outstanding Educator Awardを受賞し、また2000年には計算機科学の数学的基礎分野での業績を称えるものとして設立されたKnuth賞を受賞しています。氏の研究の広がりと同様に、著書の分野は多岐にわたりますが、例えば"Principles of Database Systems"はデータベースシステムに関連する理論と原理を包括的に記述した名著として知られています。また、今回のC&C賞受賞者たちとの代表的著作である”Automata Theory, Languages, and Computation”や”Compilers: Principles, Techniques and Tools”を含む、氏の文献総引用数は110,000を超えています。このことは、理論的計算機科学分野の今日の発展に対する著書執筆を通したウルマン教授の教育的、人材育成面での極めて顕著な貢献を示しています。
以上のように、エイホ教授、ホップクロフト教授、そしてウルマン教授の3氏は、計算機科学分野における中核技術である、「オートマトン」、「形式言語」、「言語理論」、「コンパイラ」、「データ構造」、「アルゴリズム」、「データベース理論」、「グラフ理論」等に関する先駆的な研究とともに、単独或いは互いの共著によって、これら技術に関する多くの研究論文や著書を発表してきました。特に、3氏による共著である、” The Design and Analysis of Computer Algorithms”(1974年)、“Data Structures and Algorithms”(1983年)などは、それまでの研究成果を専門的見地から集大成したことに加え、教育的な意味でも名著となっています。総括すれば、専門的な学術研究の成果に加え、著書や講義、学生指導といった教育面、出版面や人材の育成においてC&Cの中核でもある上記分野の今日の著しい発展に果たしてきた役割とその功績には多大なものがあり、以上3名の博士はC&C賞の受賞者としてふさわしいものと考えます。