English | アクセス | お問い合わせ

公益財団法人 NEC C&C財団

 

2019年度C&C賞受賞者

Group A

安田 靖彦 博士

安田 靖彦 博士
Dr. Yasuhiko Yasuda

東京大学 名誉教授
早稲田大学 名誉教授

羽鳥 光俊 教授

羽鳥 光俊 教授
Prof. Mitsutoshi Hatori

東京大学 名誉教授
国立情報学研究所 名誉教授



業績記

放送及び情報通信工学における画像情報処理分野に関する先駆的研究開発と分野発展に係る先導的貢献

業績説明

 近年のデジタル放送やインターネット、ソーシャルネットワークサービス等の普及により、画像や映像を通じたコミュニケーションは社会生活において欠かせないものとなっています。今後も4Kに続く8Kなどの高精細テレビ放送の実用化をはじめ、5G高速無線通信による社会の変革や発展が期待されますが、それらの実現には効率的で使い勝手の良い画像符号化の技術が長年にわたり重要な役割を果たしてきました。 

 安田靖彦博士は、1960年代から、デルタ・シグマ変調、G2/G3 ファクシミリ符号化、階層的画像符号化などの研究や提案を通じ、現在の情報通信工学の発展に寄与する先駆的な功績を多数挙げてきました。 

 デルタ・シグマ変調方式は、従来のデルタ変調の欠点を解消するのみならず、A/D変換方式としての性能および実装両面で優れた画期的なものとして知られます。現在ではオーディオ信号のオ-バ-サンプリング方式や高精度A/D変換方式の必須技術ともなっており、その発明から半世紀以上経過した今でもなお、世界各国で活発な研究開発が進められています。また、ファクシミリ符号化では、アナログ帯域圧縮方式の提案を皮切りに、画像圧縮や中間調表示技術などデジタルファクシミリ発展の初期から研究開発を先導してきました。さらに、静止画像符号化方式の検討では、1980年に「階層的画像符号化」方式を世界に先駆けて提案しています。最初に画像信号を階層化し、その後伝送する本方式は受信者に即座に画像の概要を伝えることを可能にしました。また、本方式は多種多様な環境や解像度をもつデバイスへ最適な情報転送を可能とするメリットを有するとともに、ISO/IEC/ITU-T共同の静止画像符号化の国際標準となるなど、その功績は極めて顕著です。2017年、電子情報通信学会では、社会や生活,産業、科学技術の発展に大きな影響を与えた研究開発の偉業をマイルストーンとして選定しましたが、安田博士の功績として、デルタ・シグマ変調および階層的画像符号化の2件が認定されている点も特筆されます。また、G3ファクシミリの標準化はNTTとKDDIの共同申請によって、2012年にIEEEマイルストーンにも認定されています。  

 以上のような技術的貢献はもとより、安田博士は長年にわたり学会や各種審議会の委員・会長職やデジタル放送システムの規格策定の先導などの活動を通じ、情報通信工学の発展や実用化、そして普及といった多方面にわたる功績を残されています。 

 羽鳥光俊教授は、故瀧保夫東京大学教授の指導のもと、将来のテレビジョン信号、テレビ電話、テレビ会議などといった動画像における高効率符号化の重要性を予見し、その黎明期から研究活動に従事されてきました。現在の動画像高効率符号化技術の基礎となる多数の研究成果と功績を残されています。また教授は、映像信号処理の基礎的研究に加え、実用化や標準化を担う組織においても指導的役割を果たしてきました。 

 教授の先駆的、画期的研究成果として特筆されるものに、1974年の瀧氏他との共著論文「動きに追従するフレーム間符号化」の提唱と、同技術の実用化に向けた基礎の確立が挙げられます。提唱した技術はブロックマッチング方式と呼ばれ、画像データにおける時間的な冗長度の圧縮手段であるフレーム間符号化の一種に分類されます。画面をブロック単位に分割し、動きのブロック単位相関を用いたフレーム間予測を行うという具体的な推定手法を提示した本技術は、フレーム間符号化における先駆的かつ代表的な成果の一つとして知られています。この研究はその後も継承され、後に「動き補償符号化(Moving Compensation Coding)」としてHDTVにおけるMUSE伝送方式や、MPEG符号化方式で実用化されるなど、この分野の進歩にも多大な寄与を果たしてきました。さらに教授は、映像信号処理分野の研究における先駆者として、画像処理の医学応用や、ゴーストキャンセラ、マルチパス歪みキャンセラ、他チャネル干渉キャンセラ等の信号処理研究にも取り組み、これら分野でも多数の成果を挙げています。 

 また、羽鳥教授は以上のような技術的な貢献に加え、通信放送工学に係る分野の社会的普及にも貢献してきました。本分野の実用や普及においては、通信事業者、放送事業者、それら機器事業者、省庁等の多数の関係者間における合意の形成が必要であり、その実現と発展に向けての氏の尽力と功績には大きなものがあります。さらに、大学での人材の育成とともに関連学会での会長職や、情報通信技術委員会委員長、各種審議会委員や役員等の要職などを歴任され、本分野のコミュニティ作りとリーダーシップについてもその貢献は極めて顕著と言えます。 

 以上のような安田博士、羽鳥教授それぞれが達成してきた画像情報処理分野における基礎的な研究成果や、分野の発展と社会実装において果たしてきた役割の大きさを踏まえれば、両氏の同分野における先導的な貢献には極めて大きなものがあり、C&C賞の受賞者としてふさわしいものと考えます。