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公益財団法人 NEC C&C財団

 

2009年度C&C賞受賞者

Group B

アルバート - ラズロ バラバシ教授

アルバート - ラズロ バラバシ教授
Prof. Albert-László Barabási
ノースイースタン大学 物理学・計算機科学・ 生物学教授
 兼 複合ネットワーク研究センター長



業績記

「実ネットワークの多くがスケールフリー性(※)という共通特性を有することを見出し、ネットワーク研究に新境地を切り拓いた功績」

※スケールフリー性:平均値のような全体を代表する尺度を持たない性質。数学的にいう、べき乗分布に従う性質。

業績記補足

アルバート - ラズロ バラバシ教授は、共同研究者とインターネットにおけるWorld Wide Webのドキュメントのリンク構造を研究している中で、1999年に、その構造はそれまで考えられてきたような均質な性質をもっているものではなく、スケールフリー性と呼ばれる新しい性質をもっていることを発見しました。即ち、ネットワークにおける個々のノード(接続点)と、それらをつなげているリンク数(接続数)の分布は、均質、ランダムな事象に基づく正規分布ではありませんでした。そこでは、わずかなリンクしかもたない大多数のノードと、莫大なリンクをもつノード(ハブ)が共存していることを見出したのです。即ち、数学的な言葉で言えば“べき乗分布”を示すことを明らかにしました。この分布には全体を表現できる平均値は理論上存在しません。このことから同氏は、全体を表現する平均値のような尺度がないという意味で、その性質をスケールフリーと呼びました。そして、その性質をもつネットワークをスケールフリーネットワークと名付けました。また、同氏らはこのべき乗分布が成長性と優先的選択性という2つの性質から理論的に生成されることを示しました。

バラバシ教授が見出したスケールフリーネットワークの性質は、World Wide Webのハイパーリンク構造やインターネットの構造などに限られるものではありません。空港間をつなぐ航空路マップ、流通ネットワーク、映画俳優の共演関係やソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などの人間社会ネットワーク、論文引用、遺伝子のネットワーク、ネットワーク経済などにも見られるものです。同氏の貢献は、世の中の極めて広範囲にわたる巨大で複雑なネットワークが共通にもつ、普遍的な性質を見出した点にあります。同氏は著書「新ネットワーク思考~世界のしくみを読み解く~」(原題:Linked: The New Science of Networks、2002年出版)に、このスケールフリーネットワークについて要約しています。

現在、スケールフリー性は、現実の複雑ネットワークの多くがもつ普遍的な性質として受け入れられ、数理科学、統計物理学だけでなく、生命・生体工学、社会科学、経済学、産業組織論などの極めて多岐にわたる分野においても数多く報告されるようになっています。更に、スケールフリーネットワークはハブに対する集中的な攻撃には脆弱であるという性質があることから、ガンの抑制、感染の抑制、コンピュータ・テロの抑制などの展開にも期待されています。

このように、バラバシ教授による、スケールフリーネットワークの発見とその理論的基礎の構築は、これまでのネットワーク構造の概念を打ち破るものであり、現実の複雑ネットワークの研究を大きく前進させたという点で、多大な功績が認められると評価しました。