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公益財団法人 NEC C&C財団

 

2011年度C&C賞受賞者

Group A

吉野 彰博士

吉野 彰 博士 
Dr. Akira Yoshino
旭化成株式会社 旭化成フェロー



業績記

リチウムイオン二次電池の開発および実用化に関する先駆的・先導的貢献

業績記補足

リチウムイオン二次電池の開発には数多くの研究者、技術者が携わっており、それらの成果が幾重にも重なって、現在の高出力、小型で携帯可能なAudio、Video、通信、コンピュータ機器向け充電池の実用化が為されたと言えます。中でも、吉野 彰博士は、リチウムイオン二次電池の黎明期であった1980年代、この二次電池開発の中心的役割を担い、実用化に向けた多大なる貢献を果たしました。

博士は、リチウムイオン二次電池の研究開発を1981年に開始しました。 電池の正極、ならびに負極の材料開発が最大の課題で、まず、負極の開発に注力しました。 それまでは一次電池を中心に金属リチウムが常用されてきましたが、その電池を二次電池として充電すると、① 充電中にリチウムが析出して樹状突起を形成し、ショートの原因となる、②金属リチウムが本質的に高活性で危険性が高い、等のため二次電池としての実用化は難しい状況でした。博士は、ノーベル化学賞を受賞された白川英樹・筑波大名誉教授が開発された導電性高分子ポリアセチレンを二次電池の負極として使う事を考えました。その場合、正極としてリチウムを含む材料が必要になりますが、1980年にOxford大学のJ. B. Goodenough教授が報告したコバルト酸リチウムが適切な材料であることを発案しました。この材料は組み合わせるべき適切な負極材料が存在せず、発表当初注目されていなかったものです。1983年に試作電池第一号が出来ますが、吉野博士の研究は、これまでの材料の取り扱い困難性を克服し、電池実用化への道筋を開くものでした。 その結果、それまでは水系電解液が主流であったため、水が電気分解を起こす1.5V以上の電圧取出しが不可能でしたが、新しい組み合わせにより非水系(有機溶剤)の電解液使用を可能とし、二次電池として4V級の高電圧、高容量の取り出しを世界で初めて実現しました。
この電極の組み合わせは現在の実用化されているものとは少し異なりますが、非水系でより安全に充放電の繰り返し動作可能な電池組成を見出した意義は、後の産業化に寄与する所きわめて大でありました。加えて本開発の中で、負極表面における固液界面膜(SEI:Solid Electrolyte Interface)の存在を二次電池においても確認し、リチウムイオン二次電池の安定的な動作、および長寿命化に繋がる重要な発見をされました。

その後吉野博士は、ポリアセチレン負極の真密度が低く小型化が困難という本質的な課題を解決すべく、リチウム貯蔵能のある炭素を負極に用いることを検討、本格的にコバルト酸リチウム/カーボン負極の二次電池の研究開発を開始しました。 カーボン負極適応の研究は当時数社も検討を進めていましたが、充電中にカーボン表面で電解液が分解する問題や、電解液の抵抗値が使用中に増大する等の問題が有り、いずれも実用化には結びつきませんでした。吉野博士の成功のポイントは、高密度で結晶の大きな炭素材料として、当時社内で開発されていたVGCF(Vapor phase Grown Carbon Fiber)を負極材料に応用した点や、電解液として環状炭酸エステルやガンマブチロラクトンの混合の最適条件等を確立した点が挙げられます。 これらの結果、1985年には、リチウムイオン二次電池の本質的な高容量性と、安定な繰り返し充放電動作を世界に先駆けて実証しました。

吉野博士のリチウムイオン二次電池の研究開発における技術的な貢献をまとめると、以下の通りとなります。
a) 金属リチウムを負極に使用する際に、この金属の高活性な性質がもたらす悪影響を排除した。
b) 正極にコバルト酸リチウム、負極にカーボン電極を用い、リチウムイオンの移動により電気を充放電するという新しい概念の二次電池を構築した。
c) 非水系(有機溶剤)の電解液の使用により、小型、軽量でありながら、4V以上の高電圧、高容量性を実現した。
d)化学的に安定で、繰り返しの充放電と、長時間の使用を可能とした。

博士が開発した重要技術には、その他にも、4V以上の高い電圧に耐え得る唯一の正極集電体薄膜金属材料として安価なアルミ箔を見出した点や、電池が異常発熱した場合に電池機能を停止させるセパレータとして、社内で別用途に開発中であった20~30μmのポリエチレン系マイクロポーラスフィルムを見いだして応用した点等が挙げられます。

吉野 博士は、以上述べたように、リチウムイオン二次電池における重要な技術を複数創出し、黎明期における実用化開発の第一人者としての評価を確立しました。リチウムイオン二次電池の現代の社会に果たしている役割の大きさを考えると、吉野 博士の研究開発成果はC&C賞に相応しい業績と考えます。