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公益財団法人 NEC C&C財団

 

2012年度C&C賞受賞者

Group B

小林 久志 教授

小林 久志 教授
Prof. Hisashi Kobayashi
米国プリンストン大学 シャーマン・フェアチャイルド名誉教授
独立行政法人情報通信研究機構(NICT)特級研究員



業績記

情報記録の高密度化・高信頼化方式、ならびにコンピュータおよび通信ネットワーク・システムの性能評価のための解析的手法の発明、実用化に関する先駆的・指導的貢献

業績記補足

ハードディスク等の信号処理および復号方式であるPRML(Partial Response, Maximum Likelihood)方式、ならびにコンピュータや通信ネットワークの性能評価の解析的手法は、現在のIT技術の進展に欠かせない技術として広く使われています。米国プリンストン大学の名誉教授である小林 久志教授は、最先端の理論を駆使した革新的な手法により、これらの方式の発明や手法の開拓に多大な貢献をしました。

小林教授は、1967年にプリンストン大学にてPh.D.を取得後IBMワトソン研究所に入社され、高速データ通信理論および磁気記録の高密度、高信頼化の研究に従事しました。通信路の限られた帯域幅に対しデータ伝送の速度を上げていくと、符号間干渉といわれる隣接するするデジタル符号の信号間の干渉が起こりますが、この符号間干渉を除去する自動等化器の開発が当時の高速データ通信分野では最大の関心事でした。これに対して、小林博士は、符号間干渉があっても受信側で誤り率を最小限にしてデータを回復する画期的な手法を提唱しました。

1968年に小林博士は、タン(Tang)博士と共同で、磁気記録での高密度化とデータ伝送での高速度化は数学的に等価であることを初めて明らかにし、符号間干渉を許し帯域の利用効率を高めるパーシャル・レスポンス(PR; Partial Response)という概念を磁気記録の高密度化に適用することを提唱しました。さらに、1967年にヴィタービ(Viterbi)教授が畳み込み符号の復号方式として提唱した最尤度復号方式(ML; Maximum Likelihood)がパーシャル・レスポンス信号の復号処理にも適用できることを見出し、これらを組合せることにより磁気記録の大幅な高密度化と高信頼化につながることを解析とシミュレーションにより1970年に初めて実証しました。その後IBMチューリッヒ研究所の研究グループが試作実験を行い製品化を目指し開発研究を行いました。

最先端の通信理論を駆使しデジタル記憶装置の高密度化と高信頼化を目指した本方式は、1990年にIBM社が発表した新世代の5.25インチのハードデイスク・ドライブ(HDD)に使用されて以来、PRML方式と言う名称で磁気あるいは光学的記録によるストレージやメモリの殆どの製品に使用されています。

また、小林博士は、1971年にIBMワトソン研究所に新設された「システム測定とモデル化」グループのマネージャとしてコンピュータの性能評価や予測のための解析的手法の研究においても先導的な役割を果たしました。1970年代初頭、コンピュータシステムの性能評価の為のモデルとしてマルコフ型待ち行列ネットワークモデルを適用する手法が注目されていましたが、小林博士は、仮想記憶に基づく多重プログラムシステムの解析モデルとして、拡散過程近似を適用し非マルコフ型待ち行列ネットワークモデルを提唱、その近似解を求めることにより解析的手法の拡張化に大きく貢献し、さらに本拡散近似手法が多重アクセス型の通信システムの解析にも非常に有効であることを示しました。

待ち行列ネットワークモデルによる性能解析では、正規化定数を効率よく求めることが重要ですが、小林博士は畳み込みアルゴリズムやポリアの列挙法に基づく初の効率的かつ実用的な計算法を提唱し、性能解析のために同僚のライザー博士等が世界に先駆けて作成した最初のソフトウエアパッケージQNET4やそれに続くRESQの開発に理論的な貢献をしました。

小林博士の研究成果は多くの研究者に影響を与え、1970年代中半以降、待ち行列ネットワークモデルによる性能解析の分野は、同博士等の開発した手法をベースに大きく発展することとなりました。これらの功績により1975年にIBM功績賞、1977年にはIEEEフェローに選出され、1979年には西独のフンボルト賞を授与されました。1978年には本研究分野のバイブル的教科書となる“ Modeling and Analysis:An Introduction to System Performance Evaluation Methodology ”(Addison Wesley)を出版し、1980年から1986年まで、国際専門誌 ”Performance Evaluation ”(North Holland/Elsevier)の初代主幹として活躍されるなど、本研究分野の確立と普及に多大な貢献をしています。

さらに、これらの研究実績に加え、1986年から1991年までプリンストン大学の工学部長を務められ、国内外の諸大学や研究機関のアドバイザーとしても活躍されるなど、国際化時代の日本人の研究者として先駆的かつ先導的な活躍をしています。

これらハードディスク等の高密度記録とコンピュータシステムの性能評価に関する研究開発成果は情報通信全般における研究開発の発展に対し著しく貢献したものであり、C&C賞に相応しい業績と考えます。