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公益財団法人 NEC C&C財団

 

2015年度C&C賞受賞者

Group A

喜連川 優 教授

喜連川 優 教授
Prof. Masaru Kitsuregawa

東京大学 生産技術研究所 教授
国立情報学研究所 所長


業績記

大規模デジタル情報時代に向けた先進的なIT基盤技術に関わる研究開発への先駆的・主導的な貢献

業績説明

ソーシャルメディアの普及拡大やインターネットを介した動画の流通など、様々な情報が爆発的に拡大する現在、その多様かつ膨大な情報を利活用するいわゆるビッグデータ分析が社会課題の解決に有効と言われています。また、それらのメディアに加え、今後はIoT/M2Mの普及が進むことが想定され、桁違いの量のセンサー情報までも取り込んだ膨大なデータを高度に処理し、新たな価値を創造する社会の実現が期待されています。そのためには、データを収集、蓄積、分析する技術に加え、それを産業やサービスに利活用するために必要な技術群を両輪とする研究開発が求められます。  

喜連川教授は、そのような社会の進展に対応し、データベースシステムの高性能化の研究を一貫して進め、並列データベース処理方式、高速データベースエンジンや演算ハードウェア、高機能ストレージ等に関し、先駆的かつ顕著な研究業績をあげてきました。  

教授は、研究初期からデータ(情報)とデータ管理のもつ重要性に着目し、1980年代初頭のGRACE関係データベースマシンの提案をはじめ、今日のデータベースシステムに欠かすことのできないハッシュに基づく演算技法を数多く提案し、本分野を国際的に牽引すると共に、実際にシステムを構築して、その性能や有効性を実証するなど、多くの優れた業績をあげています。  

教授らの開発したハッシュを用いた動的クラスタリングを特徴とする関係データベースアーキテクチャである機能ディスクシステムは、1980年代の主要評価指標であったウィスコンシンベンチマークにおいて圧倒的な性能を示し、ハッシュを基盤とする問合せ処理の効率的並列化を実証しました。また、大規模PCクラスタや分散共有メモリ計算機に対しハッシュによる演算技法の実装と評価を実行して有効性を明らかにするなど、大規模並列データベースの発展にも多大な貢献を果たし、2009年にはデータ工学の代表的学会である ACM SIGMODにおいてEdgar F. Codd Innovations Award を受賞しています。今日、これらの問合せ処理方式は殆どの商用データベース管理システムに実装され、検索エンジン向けの並列計算システムとして知られるMapReduce等の大規模データの並列分散処理においても活用されるなど、産業界にも多大な貢献を果たしています。  

さらに、教授は、超巨大なデータベースを高度に利活用する新たな社会システムの実現に向け、2010年に開始した内閣府の最先端研究開発支援事業において、「非順序実行原理」という革新的なデータ処理原理の発明に基づく高速データベースエンジンを産業界と共同で開発しました。当該事業ではセンサー情報等の、ビッグデータ時代に巨大化するデータ領域をターゲットに従来比で約1000倍のデータ検索性能を達成するなど、時代を先導する研究業績をあげています。  

また、喜連川教授は大規模デジタル情報時代に顕在化する技術面や制度面の課題を広く予見し、時代に先駆けその解決に向けた産学官のプロジェクトを立ち上げ、サービスや法制度の在り方までも含めた数々の先進的な取り組みを主導し、同領域の研究開発や産業応用の発展に先駆的・総合的な貢献を果たしてきた国内の代表者でもあります。  

教授は、21世紀に入り人類が生み出す情報量が急速に増大している状況を「情報爆発」と呼び早くから着目していましたが、2010年代に米国発で起こったビッグデータのムーブメントに先駆け、2005年に文部科学省の研究事業として情報爆発の特定領域研究を開始し、情報爆発から派生する課題を明らかにすると共に先進的なIT基盤の創出に取り組み、情報爆発を活用したサービスの有効性を明らかにしました。本事業は本領域の多くの事業や研究の端緒となりましたが、さらに、2007年には本分野における先進的なサービスの創出に向けて経済産業省の研究プロジェクトを立上げ、多様なサービス分野における多くの実証検証を行い、パーソナル情報の利活用や著作権などの、先進サービス普及上の障害ともなる制度面の課題検討や環境整備にまでも取り組みました。以上のプロジェクトへの取り組みの成果は国内における超大規模なデータや情報を処理する研究開発への関心を高め、今日の研究活動の高まりや、医療・健康分野を始めとする産業応用の活性化などにつながっています。  

さらに、近年では、アジアで最大級の日本語ウェブアーカイブを構築し多様な社会分析に関する研究を推進すると共に、水資源や地球温暖化等の多くの分野の研究者のプラットフォームとして超巨大地球環境データベースシステムを構築し提供するなど、大規模デジタル情報処理技術の多様な応用分野への適用や展開にも幅広く貢献しています。  

以上、今日のICTは、情報の処理基盤であることに加え、桁違いに大量のデータを情報に変えて利活用し、社会生活全般にわたる新たな技術やサービスを生み出すためのエンジンとしての役割にも進化しようとしています。さらにICTには、近い将来超巨大データベースを中心とした大規模デジタル情報が支える人工知能への発展が予想され、それは社会を大きく変えようともしています。大規模並列データベースシステムの高性能化の研究を進める中で、現在のビッグデータ(情報爆発)やクラウドコンピューティングなどの潮流を予見し、それに先駆けた研究開発やプロジェクトによって潮流を実現してきた教授の先駆的・先導的な取り組みは、情報通信技術のみならず我が国の経済や産業界の発展においても多大な貢献を果たすものであり、C&C賞に相応しい業績と考えます。