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公益財団法人 NEC C&C財団

 

2020年度C&C賞受賞者

グループA

村井 純 教授

村井 純 教授
Prof. Jun Murai

慶應義塾大学 教授



業績記

日本におけるインターネット構築ならびに発展への先導的かつ社会的な貢献

業績説明

SNS、オンラインショッピング、ネット検索など、私たちはインターネットを利用しない日はありません。今日、私たちは、世界の人々とインターネットを通じてつながり、インターネットを介した様々なサービスを利用して便利で豊かな生活を享受しています。 

インターネットは、私たちの生活や産業、そして文化に大きな影響を与えました。例えば、私たちは、わからないことをネット検索し、スマホでニュースを読み、SNSでつながってネット上にコミュニティを形成するようになりました。そして、世間に対して影響力を持つインフルエンサーが登場しました。オンラインで買い物をし、映画や音楽配信を楽しみ、資金をクラウドファンディングで調達しています。現在、突然出現したCOVID-19により、人々の往来が制限されていますが、私たちは、インターネットを利用して、テレワークやWeb会議、遠隔授業といった方法に行動を変えて、社会活動を継続しています。インターネットは、新しい課題の解決や人間の創造活動を、誰でも自由に手軽にコストと時間をかけずにできるインフラとして機能し、現代の社会に不可欠な社会基盤となりました。 

村井教授は、日本のインターネットのパイオニアとして、数多くの有志の人たちとともにインターネット網の整備と普及、日本語をはじめとする多言語対応や技術標準の策定、インターネットの健全な運用と発展に尽力し、そして国際的にも活躍されました。 

教授は、1984年、日本におけるインターネットの実質的な起源とされるJUNETを創設し、国内の学術組織をネットワーク接続するとともに、海外のアカデミックネットワークと国際接続を実現しました。JUNETの特徴として、日本語を利用できるようにしたこと、今では常識ですが「利用者ID@ドメイン名」というアドレスで電子メールが届く仕組みにしたことなどがあげられます。JUNETは,インターネット技術に貢献しただけではなく、情報の共有や協調作業、オープンソースといったネット文化の浸透,インターネットに関わる人々や組織をつなぐ場となりました。 

教授には、「コンピュータは人間が使う道具であり、人間が使いやすいように変わらなければならない」という信念があります。「世界中のコンピュータ同士が接続され人間を支援する環境を作る」ことを目標に、1988年、WIDEプロジェクトを立ち上げました。国内の組織をインターネットプロトコルで接続、そして、WIDE Internetが国際接続され、日本がインターネットの一翼を担いました。また、メールシステムの国際化、日本語化の推進、IETFにおけるIPv6標準化の策定作業に参画しました。教授の思いもあり、IPv6の参照コードをOSに実装してオープンソースで公開、普及に大きな貢献をしました。1997年、世界に13台しかないDNSルートサーバーの1つの運用を任され、インターネットにおいて日本は重要な役割を担い続けています。WIDEプロジェクトは、日本のインターネット研究開発コミュニティを確立し、数多くの研究者を輩出しました。 

教授は、アジアにおけるインターネットの重要性を確信していました。アジア太平洋地域におけるインターネットの長期的な発展を推進するために、1990年代初頭、理事長を努めていたJPNICからAPNICを設立し、アジア太平洋地域のIPアドレスの割り当て・管理をしています。人材育成に関しては、黎明期より積極的にWIDEプロジェクトを通じて貢献してきただけではなく、SOI-Asiaの構築や衛星によるアジアインターネット基盤(AI3)の構築を積極的に行い、アジア各国におけるIT人材/インターネット人材の育成に多大なる貢献をしています。 

教授は、インターネット技術の方向性やアーキテクチャについての議論をするIABのメンバー、インターネット技術およびシステムに関する標準化、教育、ポリシーに関する課題や問題を解決あるいは議論するISOCの理事、インターネットのIPアドレスやドメイン名などの資源を管理するために設立されたICANNの理事などを務め、インターネットの維持・発展に寄与しています。また、教授は、インターネットを健全に運営する上で必要なルール作りや仕組みを検討して実施する体制作りにも取り組んでいます。誰でも、自由にグローバルにデータを共有・交換できるインターネットは、人々の創造活動を活発にし、社会の発展に寄与しています。2018年、教授は、慶應義塾大学サイバー文明研究センターの共同センター長に就任、新しいサイバー文明の台頭が人類に与える影響の研究にも取り組んでいます。 

クラウド、ビッグデータ、IoT、センサーネットワークなど様々なものがインターネットを基盤技術として成り立ち、さらに、それらを利用して様々なサービスが生まれ、人々の生活を豊かで便利にしました。教授はインターネットの黎明期から、多くの協力者を先導して、インターネットの構築と普及、健全な運営を推進、人材育成とインターネット文化の醸成に貢献しています。その功績は極めて大きなものがあり、C&C賞の受賞者としてふさわしいものと考えます。