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公益財団法人 NEC C&C財団

 

2020年度C&C賞受賞者

グループB

マイケル・ストーンブレーカー博士

マイケル ストーンブレーカー 博士
Dr. Michael Stonebraker

マサチューセッツ工科大学 コンピュータサイエンス教授



業績記

リレーショナルデータベースシステムに関わる先駆的・先導的貢献

業績説明

私たちは、日常的に様々なデータベースを利用しています。例えば、オンラインショッピングで買物する時に、郵便番号を入力すると自動的に住所の町名まで表示されるのは、住所録データベースと連動しているからです。飛行機の予約や、図書館で書籍を探す検索サービスなども、データベースシステムが利用されています。企業においては、仕入れ・生産・在庫・販売、従業員の管理、会計など、企業活動で生ずる各種の大量のデータを、計算機を利用してデータベースステムで管理し、事業活動の効率化に役立てています。近年、社会的課題の解決や新たな価値創造のために、データを積極的に活用する取り組みが行われています。例えば、大量のデータを分析して特徴を見出して、今まで気づかなかった事実を把握したり、機械学習させて予測モデルを構築して未来予測するなどです。このようにデータの利用価値が増していく中、各種の大量のデータを効率よく管理し、利用するために、データベースシステムがますます重要となっています。 

マイケル ストーンブレーカー(Michael Stonebraker)博士は、リレーショナルデータベースシステム(Relational Database Management System, RDBMS)の研究開発に取り組み、RDBMSに不可欠な多くのアイデアを発明しました。博士の研究成果は、公開された学術的なプロトタイプとスタートアップ企業を通じて、多くの実稼働するRDBMSに大きな影響を与えました。 

博士は、1971年、カリフォルニア大学バークレー校の助教授となり、RDBMSで初期の先駆的な業績をあげました。1970年代初頭に、エドガー F. コッド(Edgar F. Codd)が発表したリレーショナルデータベースの理論的基盤である関係モデル(relational model)に関する論文を読み、RDBMSの研究プロジェクトIngresを開始しました。Ingresは、IBMのSystem Rとともに、関係モデルを実用的かつ効率的に実装できることを知らしめたシステムとなりました。Ingresには、データベースの実装に適した平衡型探索木であるB木(データ構造を枝分かれした図で表したツリー構造モデルの一つ)、分散環境におけるデータの一貫性保証や負荷分散を実現するレプリケーション(複製)、データ完全性を保証するための制約条件、トランザクション処理性能を保証するロック機構などの多くのアイデアが導入され、その後のRDBMSで広く採用されています。1970年代半ばには、IngresシステムはDECハードウェア上で動作し、1980年代初めには商用アプリケーションと並ぶレベルになりました。研究成果はBSD (Berkeley Software Distribution)の派生ライセンス条件で提供され、複数の企業がこれをベースとした製品を作るようになりました。博士も商用スタートアップを設立しています。 

1980年代には、関係モデルの限界に対処するため、Ingresの後継システムとなるオブジェクトリレーショナルデータベースシステムPostgresの開発を始めます。複雑なデータ型を扱えるようオブジェクト関係プログラミングモデルを提供し、ユーザは新たなデータ型を登録し、それを扱う関数をプログラミング可能としました。Postgresはプログラマビリティとパフォーマンスの両方が向上したことで、商用データベース市場を大きく広げる効果がありました。PostgresもBSD風ライセンスで配布され、今日のフリーソフトウェアPostgresSQLの基盤となりました。また、PostgresSQLをベースとして、複数の企業が創業しています。 

2001年、マサチューセッツ工科大学に移り、データベースに対するニーズの変化に応じて、新たに一連の研究プロジェクトを開始しました。列指向データベース管理システムC-Store、高いスループットを実現した分散型インメモリデータベースのH-Store他いくつかのデータベースシステムを開発しました。博士は、データベース分野を中心に、産学の垣根を超えた積極的な活動を続けています。 

1988年からは、データベースの専門家を対象に、重要な論文、著作物を選定し収録した ”Readings in Database Systems”(The MIT Press)の編集を行いました。本書は、現在第5版となっています。 

以上のように、ストーンブレーカー博士は、データベース技術の創成期に、RDBMSに関する多くのコンセプトを考案し、技術実証して実用化し、データベースシステム分野の基礎を構築するという極めて大きな貢献をされました。さらに、学術面に加え事業面においてもその垣根を超えた功績は多大であり、C&C賞の受賞に値すると考えられます。