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公益財団法人 NEC C&C財団

 

2021年度C&C賞受賞者

グループA

福島邦彦博士

福島 邦彦 博士
Dr. Kunihiko Fukushima

一般財団法人ファジィシステム研究所 特別研究員



業績記

人工知能技術の発展への貢献となる、脳の視覚野の知見を工学に応用した階層型神経回路モデル「ネオコグニトロン」の先駆的研究

業績説明

人工知能(Artificial Intelligence, AI)は、画像や音声の認識、言語の理解、推論、問題解決などの知的行動を人間に代わって人工的に再現する技術です。AIという言葉が1956年に登場し、1960年代と1980年代にAIブームを迎えました。しかし、当時のコンピュータ性能は十分ではなく、利用できるデータが限られ、実社会で実用化されるには至りませんでした。2000年代より第3次AIブームが始まり、AI技術が飛躍的に発展し、ようやくAIの活用が本格化しました。そのきっかけは、2012年の大規模画像認識の競技会であるImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge (ILSVRC)において、Hinton教授(2016年度C&C賞受賞者)のチームが、深層畳み込みニューラルネットワーク(Deep Convolutional Neural Network、CNN)を利用して、エラー率16.4%と2位以下を10%以上引き離したことです。これを契機にCNNの研究が本格化し、実社会へのAI活用が進みました。AIに飛躍的進歩をもたらしたCNNの原型が、福島博士が発明した神経回路モデル「ネオコグニトロン」です。 

1958年、福島博士は日本放送協会(NHK)に入局し、NHK技術研究所でテレビ信号の伝送帯域圧縮の研究に取り組みます。1965年、NHK放送科学基礎研究所に異動し、神経生理学や心理学の科学者と協力して脳科学の研究を始めました。博士は哺乳類の脳の視覚野の神経回路モデルを構築することを目指しました。そして、ネコやサルの視覚野の研究をしていた神経生理学者ヒューベル(David Hubel)とウィーゼル(Torsten Wiesel)によるネコとサルの視野覚の研究に着想を得て、階層構造を持つ人工神経回路モデルを作り、シミュレーションを行いました。ところで、1960年代にはパーセプトロンと呼ばれる3層構造の神経回路が知られていました。パーセプトロンを多層化すれば能力が上がることはわかっていましたが、効率的に学習させる手法は当時ありませんでした。福島博士は、競合学習の原理を用い、1975年、細胞同士が競合して学習する教師なし学習多層神経回路モデル「コグニトロン」を考案しました。しかし、入力パターンが変形したり、位置ずれしたりするとうまく認識できない弱点がありました。 

1979年、視覚野の知見をヒントに、図形の特徴を抽出するS細胞の層と、特徴の位置ずれを吸収する働きを持つC細胞の層を交互に並べた階層型神経回路モデルを考案し、「ネオコグニトロン」と名付けました。ネオコグニトロンには自己組織化能力があり、学習により文字・幾何学模様・中間調のある画像などの様々なパターンを認識するようになります。また、未学習パターンでも過去に学習したパターンと似ていれば認識する般化能力があり、手書き文字認識など広い応用範囲を持っています。しかし、当時は、計算機能力が十分でないために実現は難しく、残念ながらネオコグニトロンは基礎研究の域を出ませんでした。 

1989年、福島博士は大阪大学教授となり、その後もいくつかの研究機関を経ながら、ネオコグニトロンの研究を続けます。ネオコグニトロンは、改良が続けられ、実用的なパターン認識システムとして高い能力を持つことが実験で証明されています。現在は、自宅の書斎で、ネオコグニトロンにさらに改良を加え、少量のデータで学習できるAIを実現する研究を続けています。 

福島博士は、神経回路分野における世界的な先駆的指導者としても長年研究をリードしてきました。生理学や情報工学などの幅広い分野から脳の機能を議論できる学際的な場の創設に尽力し、日本神経回路学会の初代会長、国際神経回路学会理事、Asia-Pacific Neural Network Assembly会長などを歴任しています。 

福島博士は、階層型畳み込みニューラルネットワーク「ネオコグニトロン」を、40年以上も前に世界で初めて提唱し、今日のAIの発展と実用化に大きく寄与しました。その功績は先見的、かつ極めて重要であり、C&C賞の受賞者として相応しいと考えます。