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公益財団法人 NEC C&C財団

 

2021年度C&C賞受賞者

グループB

ロドニーブルックス 教授士

ロドニー ブルックス 教授
Prof. Rodney Brooks

マサチューセッツ工科大学 ロボット工学名誉教授
ロバストAI CTO



業績記

ロボット工学におけるサブサンプションアーキテクチャーの提唱と、自律型ロボットの実用化への主導的貢献

業績説明

掃除、警備、荷物搬送などのサービスや、災害現場や戦場などの危険な場所、宇宙探査などで、人が操作することなく自分自身で判断して行動する自律型移動ロボットが活躍する場面が増えています。手頃な価格で、便利なロボットが手に入るようになり、床掃除をロボットに任せている家庭も多いことでしょう。これからもロボットは進化を続け、家庭、職場、店舗、工場など様々ところで、人の代わりに仕事をしたり、人と協働したりするロボットが日常となるでしょう。 

ロボットが最初に普及したのは産業の分野です。1960年代より、産業用ロボットの導入が始まり、労働者に代わり、アーム型ロボットが作業を繰り返す姿は、見慣れた工場風景となりました。産業用ロボットは人間がプログラミングした動きしかできません。その後、ロボットが人工知能を持ち、人が操作することなく自分自身で判断して行動する「自律型ロボット」の研究が始まりました。1980年代初頭は、自律型移動ロボット(autonomous mobile robot)は大きくて遅く、高価で信頼性が低いものでした。当時の伝統的なロボット制御システムは、各種センサーで得た情報を人工知能で集中処理して行動計画を作り、動作するというものでした。複雑なプログラムはロボットの応答遅延とバグを発生させたうえ、ロボットプラットフォームは高価でした。 

ブルックス教授は、1984年、MITのロボット工学教授となり、1997年から2003年まではMITの人工知能研究所所長、そして、2003年から2007年までは計算機科学人工知能研究所(CSAIL)所長を務めました。1986年、ブルックス教授は、昆虫の動きから着想を得て、振舞いに基づく人工知能の概念で、自律型ロボットやリアルタイム人工知能に影響を与えた「サブサンプションアーキテクチャー(Subsumption Architecture、SA)」を提唱しました。SAは、目的を達成するための複雑な行動を、多数の単純なタスクに分割して階層化し、上位層が優先順位の高い下位層の役割を包含する階層構造となっています。そして、自律的に起動するタスク群が競合・協調することで、状況が動的に変化する環境下においても、ロボットは柔軟に適応できる能力を発現します。制御がモジュール化されたことで、制御プログラムはシンプルで小サイズとなり、応答性の向上とロボットプラットフォームの低コスト化につながりました。 

SAの発表後、ブルックス教授とそのチームはSAベースの自律型ロボットの研究に取り組みます。1980年代後半に、最初のSAベースのロボットAllenを開発しています。1990年代には、最初の自律型移動ロボットとなるPollyを開発、Pollyは人工知能研究所のツアーガイドを務めました。1993年、Cogプロジェクトを開始し、発達構造、物理的具現化、複数の知覚と駆動系の統合、および社会的相互作用の問題を調査するために、上半身型のヒューマノイドロボットの開発に取り組みました。 

ブルックス教授はロボットでの起業にも積極的でした。1990年、教え子であるColin AngleとHelen GreinerとともにiRobot社を設立、1991年に6足歩行ロボットGenghisを開発しました。1997年には、多目的作業用ロボットUrbieを、そして、その進化形のPackBotを開発しました。PackBotは重量18kgで1本のアームを備え、ドアを開けて進んだり、画像を送信したりすることができ、米軍の偵察ロボットとして活躍しました。また、ニューヨークのグラウンドゼロで生存者の捜索や、2011年に起きた福島第一原発事故の原子炉建屋内で放射線量計測と動画撮影をしました。さらに、用途に応じて様々なロボットを開発し、その中には2002年に発表した自動掃除ロボットRoombaがあります。床を隅々まで回り、段差や障害物をよけて掃除するユニークなロボットとして世界を席巻し、ロボット掃除機市場を創出して以来、全世界で3,000万台以上を販売しました。 

2008年、RethinkRobototics社を共同設立し、近隣の人間の労働者と安全に対話し、簡単なタスク実行のためにプログラムできるように設計された産業用ロボット「Baxter」を開発し、研究用にもよく利用されました。2019年にRobust.AI社の共同創業者となり、ロボット用オペレーティングシステム(OS)の開発に取り組んでいます。 

以上のように、ブルックス教授はサブサンプションアーキテクチャー (SA)を提唱し、自律型移動ロボットを研究するとともに、ロボット起業家として実用的なロボット開発を主導し、自律型ロボットの市場を創設し拡大しました。産業用、家庭用の自律型ロボットの普及への貢献は顕著であり、C&C賞の受賞に値すると考えられます。