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公益財団法人 NEC C&C財団

 

2023年度C&C賞受賞者

Group A

中村 泰信 博士

中村 泰信 博士
Dr. Yasunobu Nakamura

理化学研究所 量子コンピュータ研究センター
センター長
東京大学 大学院工学研究科 物理工学専攻
教授

蔡 兆申 教授

蔡 兆申 教授
Prof. Tsai Jaw-Shen

東京理科大学 教授
理化学研究所 量子コンピュータ研究センター
チームリーダー



業績記

超伝導量子ビットの実現と量子コンピュータをはじめとする量子情報技術分野への貢献

業績説明

量子力学の原理・現象を情報処理に利用する量子情報技術は、量子通信、量子計算、量子計測、量子センシングなど多様な広がりを見せ、急速に発展しています。最近では、従来のスーパーコンピューターでは解くことが困難な問題をきわめて高速に解くことができると期待されている量子コンピュータが脚光を浴び、開発競争が激しくなっています。  

超伝導量子コンピュータの基本素子となる超伝導量子ビットを、1999年に世界で初めて実現したのが、中村 泰信博士と蔡 兆申教授です。両氏はこの領域の研究開発をリードし、その技術は各社の量子コンピュータの開発に応用されました。そして、2023年3月、中村博士は国産量子コンピュータ初号機を稼働させました。  

中村博士は、大学卒業後1992年にNECに入社しました。配属先の基礎研究所で、当時上司だった蔡教授とともに、ナノスケール超伝導デバイスの量子状態制御の研究に取り組みます。1999年、ジョセフソン接合と呼ばれる超伝導トンネル接合素子を用い、電子のペアであるクーパー対(Cooper pair)が1つだけ微小電極に出入りするクーパー対箱(Cooper-pair box)と呼ばれる回路で、量子ビットの基底状態と励起状態の重ね合わせを制御し、それらの状態間の振動を観測しました。集積化に有利な固体素子で、超伝導量子コンピュータの基本素子である量子ビットを世界で初めて実現した瞬間でした。  

この成果を皮切りに、世界中の多くの研究者がこの領域に参入しました。両氏は超伝導量子ビット間の2ビットゲート制御を実証し、超伝導量子ビット間の量子エンタングルメント(量子もつれ)、超伝導量子論理回路、超伝導量子万能ゲートなどを実現し、この研究領域をリードしました。これらは昨今の量子コンピュータ開発の礎となりました。また、カナダのD-Wave社が、2011年に商用化した量子アニーリングマシンに用いられる量子ビットは超伝導量子ビットです。さらに、2019年にGoogleが開発した量子コンピュータも超伝導量子ビットを用いて実現されています。  

中村博士は2012年に東京大学先端科学技術研究センターに教授として着任してからも、研究室メンバーらと共に超伝導量子ビットとマイクロ波共振器内のマイクロ波光子との間で量子もつれを生成・制御・観測する研究を推進しました。また、強磁性体における磁化の素励起であるマグノンと超伝導量子ビットのコヒーレント結合を実現し、さらには量子もつれを利用してマグノンを一つひとつ制御することに成功しました。これは磁性やスピントロニクスの量子極限実験であるとともに、量子センシングや、マイクロ波と光の量子情報インターフェイスなどの応用にも通じる、新たな情報処理技術となりうるものです。  

中村博士は、2013年から理化学研究所創発物質科学研究センターに加わりました。2021年には、理化学研究所量子コンピュータ研究センター センター長に就任し、量子コンピュータ研究を統括するとともに、JST「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)」において連携機関と量子コンピュータの研究開発を進めます。2023年3月には、超伝導方式による国産量子コンピュータ初号機の本格稼働に至り、量子計算クラウドサービスの提供が開始されました。  

蔡教授は、2001年、理化学研究所が開始した量子情報科学の研究に参画し、巨視的量子コヒーレンス研究チームを率いて研究の立ち上げを主導しました。2015年に東京理科大学 教授に着任してからは、ジョセフソン接合を含む超伝導量子回路の研究を推進し、コヒーレント量子位相スリップ(CQPS)の直接観測、オンデマンド可変マイクロ波単一光子源、導波路を伝搬する単一のマイクロ波単一光子の検出システムの構築などの成果を挙げました。これらは超伝導エレクトロニクス、量子センシング、量子通信等のさまざまなアプリケーションへの応用にも通じる成果です。  

両氏が、超伝導量子コンピュータの基本素子となる超伝導量子ビットを世界で初めて実現し、量子情報技術のパイオニアかつフロントランナーとして創出した数々の研究成果は、社会に様々なインパクトをもたらす量子コンピュータの実現に貢献しました。両氏の功績は多大であり、C&C賞の受賞者としてふさわしいと考えます。