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公益財団法人 NEC C&C財団

 

2023年度C&C賞受賞者

グループB

グイド ヴァンロッサム 氏

グイド ヴァンロッサム 氏
Mr. Guido van Rossum

マイクロソフト ディスティングイッシュド エンジニア



業績記

プログラミング言語 Python の開発とオープン化への多大な貢献

業績説明

コンピューティング、5G、IoT、人工知能(AI)、データサイエンスなどのデジタルテクノロジーの急速な進化は、デジタルトランスフォーメーション(DX)を進展させ、新しいサービスやビジネスモデルを次々と創出しています。それらの多くはソフトウェアで実装されています。ソフトウェア化は、複雑なプロセスやタスクの開発を効率的にし、急速に進化するデジタルテクノロジーへの追随と、アイデアから実用化までの期間短縮をもたらし、ニーズに適応した柔軟なシステム開発を容易にしています。  

グイド ヴァンロッサム氏は、プログラミング言語Pythonの生みの親であり、Python開発コミュニティを主導して、言語の設計と開発に尽力しました。同氏のビジョンは、Pythonをシンプルで読みやすく、効率的なプログラミングができる言語にしました。今では、Pythonは初心者から専門家まで幅広い層のプログラマーに支持され、様々なアプリケーションやサービスで利用されています。  

同氏は1989年、「もっと使いやすい言語があれば」という思いから、コードの読みやすさと効率を両立した新しいプログラミング言語の開発を始め、1991年にPythonの最初のバージョンを公開しました。Python開発コミュニティが生まれ、コミュニティから提案やフィードバックを受けつつも、Pythonの方向性や変更について最終的な決定権を持つBDFL (Benevolent Dictator For Life、優しい終身の独裁者)として、コミュニティを先導します。そして1994年、基本的な型の概念やオブジェクト指向などのPythonの基礎となる構文が実装されたPython 1.0がリリースされました。  

この頃には、Pythonの開発はオープンソースプロジェクトとして成長し、様々なプログラマーが関わるようになりました。同氏のビジョンと設計思想はPythonの特徴や哲学に影響を与え、言語の発展を牽引しました。1999年にDARPA(Defense Advanced Research Projects Agency, 米国防衛高等研究計画局)に送った出資申込書「Computer Programming for Everybody (万人のためのコンピュータプログラミング)」の中で、同氏はPythonの目標を次のように述べています。  ・容易かつ直観的な言語で、主要なプログラミング言語と同程度に強力である。
 ・オープンソースであり、その開発に誰でも貢献できる。
 ・平易な英語のように分かりやすいコードである。
 ・日常的タスクに適しており、開発時間を短くできる。
Pythonの基本的な哲学を要約したガイドライン「Zen of Python」(Tim Peters, 1999)は、Pythonコミュニティ内で共有されています。  

また同氏は、2000年、PEP (Python Enhancement Proposal)を提唱しました。これは、Pythonの発展と改善を進めるための枠組みで、これによって新しい機能や変更の提案が体系的に行われ、議論や評価を経てコミュニティの合意が形成されるようになりました。  

2001年には、Pythonプロジェクトの推進、支援、保護を目的として、Python Software Foundation(PSF)が設立されました。PSFはPythonコミュニティの中心的な組織であり、Pythonの開発、普及、教育、ライセンス管理など、さまざまな側面で活動しています。同氏は、最近まで代表 (President)を務めていました。  

2000年に登場したバージョン2でPythonの人気が拡大し、2008年にPython 3がリリースされ、プログラミング言語として成熟したバージョンとなりました。Pythonは、Webアプリケーション、データサイエンス、機械学習、人工知能(AI)、自動化など、様々な領域で利用されています。同氏は2018年、BDFLから退き、Pythonコミュニティは新たな指導体制に移りましたが、今でもPythonコミュニティに深く関わっています。  

Pythonはインタープリタ型の高水準汎用プログラミング言語です。Pythonの特徴であり、人気の理由には、次のような点が挙げられます。

  1. Pythonはシンプルで読みやすい構文を持ち、初心者でも学び易く、理解しやすい。
  2. Pythonには標準ライブラリが豊富に含まれており、開発者は効率的にプログラムを作成できます。Pythonは「batteries included」(電池付きで、そのまま使える)という思想のもとで設計されており、Pythonをインストールするだけで、ファイル操作からデータベース操作、ネットワーク通信、GUIアプリ開発などの機能を実現できます。特に、機械学習などの人工知能(AI)のサードパーティライブラリが豊富な点はPythonの強みです。
  3. Pythonでは、Webアプリケーションや人工知能(AI)などの様々なフレームワーク(アプリケーションやソフトウェアを効率的に開発するための基盤や構造を提供するツールセット)を利用でき、開発者は高品質で効率的なプログラム開発ができます。
  4. Pythonは様々なオペレーティングシステム(OS)で動作します。
  5. Pythonの広範囲のコミュニティから、質の高いドキュメンテーション、フォーラム、チュートリアルが提供され、開発者同士の情報共有や相互サポートが活発です。多くのサードパーティライブラリやフレームワークも提供されています。

同氏のビジョン、リーダーシップ、そしてPythonコミュニティへの貢献は、プログラミングの世界に大きな影響を与えました。Pythonは、豊富なライブラリとフレームワーク、ツールを揃えた周辺環境のエコシステムによって、多様なソフトウエアアプリケーションで利用され、社会の発展に寄与しています。彼のプログラミング言語Pythonの開発とオープン化への貢献は多大であり、C&C賞に値します。