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公益財団法人 NEC C&C財団

 

2025年度C&C賞受賞者

グループB


ジャック・ドンガラ 氏

ジャック・ドンガラ 氏
Jack Dongarra

テネシー大学 名誉教授
マンチェスター大学数学科 チューリング・フェロー



業績記

科学計算の高速化とその応用への貢献

業績説明

1970年代から1990年代にかけて、コンピュータの性能は飛躍的に向上し、コンピュータによるシミュレーションや解析処理が盛んに行われるようになりました。急速に進歩するハードウェアに対応した高性能なソフトウェア開発が求められ、そのためには、効率的で再利用性の高い数値計算ライブラリが不可欠でした。ジャック・ドンガラ氏は、LINPACKなど、数値計算ソフトウェアライブラリの開発、コンピュータの性能ランキング「TOP500」の創設、高性能計算技術の発展に大きく寄与しました。彼は、MPI(Message Passing Interface)など分散並列計算技術の普及にも尽力し、HPC(High Performance Computing)の発展に大きく寄与し、高性能な科学計算と応用の基盤を築きました。  ドンガラ氏は、シカゴ州立大学数学科に在学中、アルゴンヌ国立研究所(ANL)でインターンシップに参加し、EISPACKプロジェクトに関わったことで、数学ソフトウェアに興味を持ちました。彼は、ANLで週1日働きながら、イリノイ工科大学でコンピュータサイエンスの修士号を取得、1975年からはフルタイムで勤務し、線形代数のソフトウェアパッケージ開発を担当しました。1980年、ニューメキシコ大学で博士号を取得し、1989年にはテネシー大学とオークリッジ国立研究所のジョイントポジションを受け入れました。ドンガラ氏は、40年以上にわたり、LINPACK、BLAS、LAPACK、ScaLAPACK、PLASMA、MAGMA、SLATEといった数多くの数値計算ライブラリの主要実装者、あるいは主任研究者として活躍しました。これらのライブラリに組み込まれた自動チューニング、混合精度計算、バッチ計算などの高度な革新的な技術が、ライブラリの性能と移植性を高めました。ライブラリは、ノートパソコンからスーパーコンピュータに至るまで幅広いプラットフォームで利用されています。  ドンガラ氏は、並列計算におけるプロセス間通信を実現するための標準規格であるMPIの策定に深く関与しました。1990年代初頭、HPCは分散メモリ型へ急速に移行しましたが、並列計算の通信手法はベンダー依存のライブラリが多く、プログラムの移植性や保守性に難点がありました。彼は研究者コミュニティと連携しつつ、分散メモリ環境のためのメッセージパッシング規格の策定に取り組み、1994年にMPI-1.0をリリースします。MPIは、シンプルながら強力なメッセージパッシング機能を提供し、数値シミュレーションや科学技術計算の分野で広く採用され、HPCの標準インターフェースとして用いられでいます。彼のMPI開発への貢献は、「ハードウェアの差異を抽象化し、研究者の生産性を向上させる」という理念が生んだ画期的な成果でした。  ドンガラ氏は、コンピュータの性能を評価するための代表的なベンチマークであるLINPACKベンチマークの開発と、コンピュータ性能ランキングTOP500プロジェクトの創設でも知られています。1979年、彼はLINPACKのユーザガイドの付録に、線形方程式を解くのに必要な事件を計測するテーブルを掲載しました。テーブルは15種のコンピュータの性能比較で、これがLINPACKベンチマークの始まりです。同僚から理論値でのランキングのアイデアをもらい、TOP500というランキングリストを作成、1993年に初めて発表しました。以降、1年に2回、最新のリストが発表されています。HPCの発展とともに、LINPACKベンチマークは進化しており、TOP500では異なる指標に基づいて測定されたベンチマーク・ランキングも発表されています。TOP500はHPC分野における傾向を追跡・分析するための信頼できる基準となっています。 ドンガラ氏は、高効率な線形代数演算ライブラリ、並列プログラミング機構、コンピュータの性能評価ツールなどの重要な研究開発を通じて、HPCコミュニティの成長とHPC分野の発展に貢献しました。これらの成果は、科学計算の発展を促し、シミュレーションや数値解析といった手法で生み出された科学的発見や技術革新は、社会の発展を加速させる原動力となりました。彼の功績は国際的に高く評価されており、C&C賞の受賞はまさにその偉業を讃えるものであると考えます。